温度による変性

タンパク質は温度を変化させることにより、その規則正しい構造を維持できなくなり変性する。
これを熱変性という。

(以下ちょっと文字が多いが、イメージ化しずらかったので勘弁。)


その変性の仕組みを熱力学的に説明すれば、
エンタルピーによる安定化効果 < エントロピーによる不安定化効果
と言える。

なぜ熱変性するのか段階を追って考えていこう!

問1 何故変性するのか?
答1 その条件(高温)において、変性状態のほうが天然状態よりも安定だから。
   (これが議論のスタート地点。)

問2 何故変性状態のほうが安定なのか?
答2 天然状態のエントロピー的不安定化が高温で大きくなり、エンタルピー的安定化を上回るから。

拡大すると

上図はリゾチームの熱変性測定(DSC)より得られた熱力学的パラメータの温度依存性である。
(これらの値の関係式は”タンパク質の熱変性における熱力学1(ΔH、ΔS)2(ΔG)”で説明するとして、
 ここでは概要を説明する。)
(本によっては正負が逆になっているものもあるが、基準0をどこにするかの差である。デルタの扱い参照

黒線がエンタルピー変化(ΔH=HN−HD)。
赤線がエントロピー変化(ΔS=SN-SD)に温度を乗じたもの。
青線が自由エネルギー変化(ΔG=GN-GD)。

知っておいて欲しい式 ΔG=ΔH−TΔS を元に考えれば、
青線(ΔG)は黒線(ΔH)と赤線(TΔS)の差であることがわかる。
多くのタンパク質が天然状態である室温(300K)ではΔG<0であり、
GD>GN
つまり
変性状態よりも天然状態のほうが自由エネルギーが小さく、安定
であることがわかる。

なぜ、ΔG<0になるかといえば、
300Kにおいて ΔH<TΔS だからである。

なぜ、ΔH<TΔSなのかといえば・・・・・・
HN<HD :天然状態のほうが相互作用が多い(値が負に大きい)
SN<SD :天然状態のほうが秩序高い

たまたまそれぞれの大小関係で ΔH<TΔS となったからと言える。
たまたまと書くとなんだそりゃと思うかもしれないが、
そういうエネルギー的大小関係にあるタンパク質のみが生き残ったということである。

ΔG、ΔH、ΔSに関しては”タンパク質の熱変性における熱力学1(ΔH、ΔS)2(ΔG)”を参照のこと。

話を熱変性に戻すと、
右図を見ると青線(ΔG)が高温・低温の両方で正になっているのがわかる。
この正はΔG>0 (GN>GD)という意味だから、
天然状態よりも変性状態の方が自由エネルギーが小さく、安定
つまり変性する比率が高いという意味である。

なぜ、ΔG>0になるのか?
それは左図を見れば分かるように、
黒線(ΔH)と赤線(TΔS)の大小関係が入れ替わっていることによる。
高温では エンタルピー的な安定化効果を エントロピー的な不安定化効果が上回るために 変性するのである。
のである。


左図からもわかるように、タンパク質は低温でも変性する。
一般にはあまり知られていないが(というか低温料理なんてやらないし・・・、大変だし・・・)、
非常に興味深い研究領域となっている。
(実際の研究においては溶媒の凍結などなどの問題をクリアする必要がある。)